Holiday 2018
Generations of Warmth
1年で最も寒い季節、心温まる家族の物語を5つお届けします。母と娘、父と息子、そして夫と妻がおりなす昔ながらの伝統を伝えるカナダ北部でのストーリー
 Sarain & Banakonda
サライン・フォックスは空気が静まるのを待っています。あたり一面が新雪に覆われると訪れる静寂です。サラインと母のバナコンダも、冬の休暇になるとこの静寂を楽しみに待っています。「空気が濃くなって、音の聞こえ方が変わるのです」
アーティストであり先住民の人権活動家でもあるサラインは、仕事の一環として北極の広大なツンドラからオーストラリアの内陸部まで、遠隔地を長い時間をかけて旅します。どこへ行くにも必ず首から下げているものがあります。革でできたその小さな巾着袋は母が用意したもので、旅の無事を願って薬が詰められています。「母も同じものを身に付けています」「人々がコミュニケーションをうまく取れるよう、先住民が議論の際に用いるトーキングスティックとして使う羽根を必ず持っていきます。とても美しい道具だし、自分が受け継ぐオブジワ族の伝統の一部でもあります」冬至もサラインが受け継ぐ文化にとって重要な意味を持ちます。冬のはじまりの日、サラインは家族と一緒に光の復活をお祝いします。「さまざまな物事に対する感謝の気持ちを表すのです」
「冬至の時期には、命と温もりを与えてくれる光を祝福します」
Sarain Fox
サラインが一番大切にしているギフトが、赤いエクスペディションパーカです。「家族みんなに使われ、とても大切にしています」母もこのパーカを着ます。先住民の実地調査を行うプログラムのリーダーを務めるバナコンダは、年に2度北部地域に学生を連れて行き、何千年も昔から続く伝統行事である4日間の断食を体験させます。バナコンダは小柄ですが、オーバーサイズのパーカを着ることにこだわっています。「袖に小さい焦げ跡がいくつもあるのは、母が火のそばで長い時間作業をするからです」この焦げ跡は、紡がれた物語と生まれた思い出の小さいけれど大切な名残です
Lance & Dick
Champion dogsledder ランス・マッケイは、生まれる前から犬ぞりに乗っていました。母のおなかにいる時もレースに出場していたのです。父のディックはアイディタロッド犬ぞりレースの創始者のメンバーです。アラスカの手つかずの自然と愛犬。ランスが夢中になるそれらのものを最初に教えたのも父です。この親子の間では、いつも犬ぞりの話題になります。
「父は、可能な限りすべてのレースにやってきて、スタートかゴールに立っていてくれます」
Lance Mackey
犬ぞりレースの優勝者 ランス・マッケイは、生まれる前から犬ぞりに乗っていました。母のおなかにいる時もレースに出場していたのです。父のディックはアイディタロッド犬ぞりレースの創始者のメンバーです。アラスカの手つかずの自然と愛犬。ランスが夢中になるそれらのものを最初に教えたのも父です。この親子の間では、いつも犬ぞりの話題になります。
「父は、可能な限りすべてのレースにやってきて、スタートかゴールに立っていてくれます」
Lance Mackey
しかし、2人の関係は常に良好ではありませんでした。長年にわたり関係はぎくしゃくし、ほとんど口を聞きませんでした。再び心が通ったのは、ランスが2001年にがんを克服した時だとランスは言います。現在、ディックはランスのレースのスケジュールに合わせて冬の計画を立て、できる限り息子をサポートしています。そして、ランスにとって、ゴールに立つ父の姿を見ること以上にうれしいことはありません。家族を最優先にすることで、ランスの冬の休暇への考え方が変わりました。ランスは両親が暮らす家から560km離れた場所に住んでいますが、それでも休暇には必ず家族で集まるようにしています。「時がすべての傷を癒してくれる」と言うように、ランスにとって最も大切なことは過去にとらわれず今を生きることです。「犬は過去を覚えていません。未来を待ちわびることもしません。今この瞬間を生きているのです」
Alysa & Jonathan
自然保護支援活動のディレクターを務めるアリサ・マッコールは、ポーラーベアインターナショナル(PBI)での活動中に、海氷上で愛する人に出会うとは思ってもいませんでした。アリサは、北極圏に暮らす人々と一緒に研究するため、頻繁に北極に足を運んでいます。夫のジョナサンと出会ったのは同じように研究のために北極を訪れた時でした。ジョナサンは、アリサを研究施設まで乗せたヘリコプターのパイロットでした。その数年後、2人はカナダグースのパーカを着て、凍った湖の上で結婚式を挙げました。「ジョナサンが私と結婚公証人を乗せたヘリを飛ばしました。凍った湖を選び、着陸し、氷の上に細い道を作って、自然の中で誓いの言葉を述べたのです」
「これまで知らなかったような形で私たち夫婦は寒さによって結び付けられています。私たちにとって、寒さは欠かせないものになりました」
Alysa McCall
ノースウェスト準州の冬の暮らしは決して容易なものではありませんが、2人は湖で釣ったばかりの魚を食べたり、雄大な自然の中を歩くなど、地元コミュニティの昔ながらの伝統が長く寒い冬の日々を満たしてくれると考えています。「みんなで寄り添って過ごしたり、楽しいことをすれば、寒さを感じません」2人は一緒に外で過ごしている時が、一番心がつながっていると感じます。冬の夜空にオーロラが揺れる様子を見ることが、お互いを近くに感じるお気に入りの過ごし方です。
Ben & Pip
極地探検家の ベン・サンダースは、タフなスポーツ選手のようです。長い時間を遠隔地で過ごし、しかも多くの場合が完全に独りの状態です。「僕の人生は極端なんです。南極大陸で飲み水のために雪を溶かしているかと思えば、正式なディナーの席で話をしている。愛する人と家で過ごすといった、その間のことに費やす時間が十分に持てません。僕にとって、冬の休暇をありがたいと感じるのはそういった時間を持てるからです」
At home with the people I love. For me, that’s the thing I appreciate the most about the holidays.”
Ben Saunders
「愛する人と家で過ごす。僕にとって、冬の休暇をありがたいと感じるのはそういった時間を持てるからです」
Ben Saunders
今年のはじめ、ベンは結婚という最大の冒険に出発しました。妻のピップもベンと同じで、寒い冬の日に外に出ることが大好きです。休暇中、2人は互いに励まし合って、どんな天気でも暖かい恰好をして長い散歩にでかけます。「寒くて真っ暗で、今日は家の中で過ごしたいと思っても、外に出ようと2人で決めました。おなかを空かせるための1時間でもいいから外に出ようと」これは2人で作った数多くある休暇中の決め事の、最初の1つです。
Greg & Grayson
映画監督の グレッグ・コーズにとって、冬の休暇はフィラデルフィア郊外の実家に帰り、忙しい日常を忘れ、家族が再び集まるときです。暖炉には火がたかれ、妻は祖母から学んだ餃子を手作りで時間をかけてたくさん用意します。こうしたシンプルな決まり事をグレッグは最も大切にしています。「家族の話をじっくり聞けることは、私にとって最高なことです」
「息子はとても思いやりのある人間だと思う。そのことをとても誇りに思うよ」
Greg Kohs
今やグレッグの子供たちは成人となり、自分の考えや意見を持っています。グレッグは、犬の散歩を子供たちと1対1で過ごす口実に使っていると言います。息子のグレイソンは映画監督の卵で、犬の散歩をしながら2人は映画作りに対する考えや思いを話し合います。「犬を連れて行くことで子供たちと心を通わせることができます。ずるい方法かもしれませんが、子供にはまだ気づかれていないので、私はこの時間を楽しみにしているんです」聞くところによると、グレイソンも父との犬の散歩を楽しみにしているようです。
Territorial Park, Nunavut